やってきた転機。
親父は独立当初より、機械の設計は外注に頼むというスタンスで仕事をしているようでした。
頂いた案件についての方策や構想はこちらで考えるのですけど、詳細な設計にあたっては、どんな些細な案件でも外注先の設計屋さんを呼んできて、打ち合わせして、『こんな風なやり方で対応したいのだけど、図面描いて!』 と依頼するというようなスタンスで仕事をしていました。
その際、設計屋さんには打ち合わせの段階で、製作にあたっての予算や使用したい器材のグレード等こちらの希望をお伝えするのですが、概ね、部品点数が多くなる方向で且つ、器材グレードも高くなる傾向がありました。
それには理由があるようで… 穿った見方をすれば、彼らの仕事料(工数)は図面の枚数で決まっていて、部品点数を多くする方が図面枚数も増えて工数もあがるからです。 当然どんな小さな部品でも1枚分の図面があって、その分の料金が加算される。
ある時には、『これはどうやって加工するの?』 という感じの、〝加工のことや組み立てのことを全く考えていない部品〟がたまに混じっていたり、また、作り手のこちらからすれば、部品点数が増えることで部品その物の加工や、機械の組み方自体も煩雑になってしまうこともありました。
そういった事柄にちょっと疑問を抱きつつも、『今回の設計費は結構かかったな。』とか、『なかなか良い感じに仕上がったな。』とかと言いながら、都度、製作案件に向き合っていたのでした。
自分で図面を描きはじめる決意。
そんなある日、とある案件で事件が起きました。
図面通りに組み立てて、さぁ動作確認! と言う時にそれは発覚しました。 なんと! 機械が停止する際に定位置で停まらないという問題が起きたのです。 どれだけ調整しても治まらない。 原因は、設計ミスで、購入部品の選定に誤りがあることがわかりました。
停止時の精度がいる装置だったので、そこが正常に機能しないと機械として成立しない…
これは本当に致命的でした。 しかも、納期がない! でも、その時の設計屋には悲壮感もなく、ただ
部品、ミスしてたみたいで
すんませんでしたな。
などという軽い謝罪のみ。
まぁ、謝られたところでその問題が解決するわけでもなし。 代替えの型式を伝えられるも、納期も予算もないし、当然、彼が弁償の意味で購入してくれるわけでもない。
その対応をするのはこっちで、納期もない状態で、遅くまで作業するのもこっち。(A;´・ω・)アセアセ おまけに、その時の設計は高い購入部品が全般的に使われていて…
本来なら、もらった購入リストをチェックしてコスト的なバランスを考えるのですけど、その時は納期がなくって、そのまま購買してしまっていたのでした。
問題を解決してなんとか納品はできたものの、もちろん大赤字でしたよ。(大泣) そんな状態でも、当然のことのように設計費用はしっかり請求されてきました。 (涙)
その時、こんなことが頭の中に湧いてきました。
よくよく思えば、設計を外注に託すということは製作に係るコストコントロールもしづらい。 そもそも、設計を外注するということは、自分たちの技術の根幹やノウハウを握られてしまうということだ。
こちらが要求を出したとしても、購入コストの部分まではあまり意識してくれないし、加工のしやすさや、組み立ての都合まで考慮して図面を描いてくれることはほぼないな。
もっと突き詰めれば、うちとしての〝設計思想(ポリシー)〟が薄らいでしまう危険もありました。
ポリシーを掲げたところで、その意図が伝わっていなければ意味がない… とも。 その時思ったんです。
これくらいやったら、オレにもできる!
それに、こっちで描いた方がコスト計算もしやすい。
これからは、自分の思った通りのポリシーで描こう!
そこから〝ボクによる〟設計がスタートしました。
確かに、設計することには、たいへんさもあります。 でも 、自分が考えた通りのメカニズムや仕組みでうまく動いたときの達成感とそれによってお客さんに喜んでもらえた時のことを思うと仕事上の張り合いがすごく生まれました。
デザインをコントロールできるという点もメリットのひとつになりました。