けたろーです。
ボクは親父と一緒に仕事をしているのだけど、この職に就いて間なしの頃は、親父の知恵や経験というのを見て感じて、【すげーー!】って思うことが多かったです。 未だにあるんだけどね。
たかが、ものづくり。 されど…
〝モノを創る〟という行為には、知識が必要な面もあるのだけど、でも、知識だけでは対応できないことも多くて。
知識の部分って、昔は本を読んだり、カタログをみたり、経験者からの話しを聴いたりして、自分の中にその情報を〝インストール〟蓄えていた。 でも、今では便利なことにネットで調べればいくらでもでてくるから、その情報量は、以前の比ではなくなってよね。
膨大な知識があるに越したことはないのだけど、でも、知識をもっているというのは、〝ただ、それを知っている〟というだけ。 重要なのは、得た知識をどれだけ〝知恵〟や、自分の中のリアルな技術に発展・深化できるか? なんだと思うんだよ。
知識を知恵に進めて、その知恵から多様な工夫が生まれてくるのかなって。
自ら見つけた知恵や工夫もあれば、先人たちから得れるものもある。 知恵や工夫は、ものづくりを安全で、かつ、綺麗に行なっていくためにはとても大事なことなのだと、この仕事をやってて痛感してます。
さて、今日はそんな話。
ドリルの研ぎ方にも場合分けがある。
今の仕事に就いて、間もなくのころ。 ドリルの刃を研ぐのを見よう見まねでやったことがある。
うちは、金属加工専門の業種ではないこともあって、ドリルの刃を研ぐための専門の装置は置いていない。 刃を研ぐときはグラインダーを使って、手の感覚や目で見ながら研いでいく。
で、刃が切れなくなったときは、自分ではできなかったので親父に頼んで研いでもらってた。 親父は長年、この仕事をやってるんで、ドリルの刃を研ぐなんてことは朝飯前。 というか、自分の腕の感覚でやってるので、教えてって言ったところで説明ができないのだ。 その辺りは、職人あるあるかも。苦笑 言語ではあらわせない、何か。 何かの部分が多くて。w
一応、やってるのを見て、理屈を聴いて、『簡単にできそう。』って思って、見まねでやってみるんだけど、なかなかそう簡単にはできなくって…。 研いでみて、端材を使って穴あけしてみて、切れない!! みたいな。(汗)
なんで、切れないんだろう? どこが違うんだろう? と、新しいドリルや、切れのいいドリルの刃の形状を見て、観察して、また、トライ。 まさに、トライアンドエラーの繰り返し。 で、ようやく、切れた!! なんて感じ。
思うに、そこは知識よりも、実際に自分でやってみての体得が一番だなって思う。 やってみないと見につかないしね。 といいつつ、実は今でもちょっと苦手なんだけど。w
まぁ、加工専門でやってるところは、ドリルの刃を研ぐ専用の器材が置いてあったりして、それでちゃっちゃとやってしまうんだろうけどね。 前に金属加工してる人に、グラインダーで手で研いでるって言ったら、『そんなの時間がもったいない! 無駄だよ。』なんて返されたこともあったな。w
だけど… ドリルの刃の研ぎ方って、部材によって違うのもあるから、その辺りは知識や知恵の使いどころかなって思ったりもするよ。
鉄向けの研ぎ方が通用しない。
繰り返しになるけど、うちは金属加工を専門でやってるわけではないので、金属以外の材料も扱ったりする。
機械を創っているという関係上、樹脂(プラスチック)とか、非鉄金属・・例えば、アルミ、銅、真鍮だったり、機械の要所に応じて、色んな素材を使って部品を作るんです。 なので、素材によっては、鉄向けの研ぎ方が通用しない場合も当然あるわけで… 要は、それなりの知識や知恵を知っておかないと、加工ができないという状況に陥ってしまうのです。
樹脂には樹脂用の研ぎ方。
ところで、ドリルで樹脂に穴をあけたことはありますか? 普通はないと思いますが。笑
実は、樹脂に穴をあける時って、一般鋼材(鉄)の時と同じドリルの研ぎ方でやると危険なんです。 ヘタすると、怪我したりします。 なんでか?
っていうと、刃が素材に食らい込んで、樹脂素材が刃物に持っていかれるということが起きます。 経験者のボクが言うので間違いないです。苦笑
あれは、この仕事に就いて間もなくの頃のことでした…
カバー用の樹脂板に穴をあける作業をするときのこと。 ボール盤に〝普通の〟ドリルをセットして、穴をあけようとしたとき! 樹脂板がドリルに巻き込まれるように吸い付かれるように持って行かれてしまったのです。
うわぁ!! キャァ━(艸゚Д゚il!)━ァァ★
少し大きめの板だったんでバイス(部材を固定する器材)は使えず、板を手で押さえて作業をしていて、当然、手では抑えきれず… ボール盤のトルク(回転時の力)はかなり大きくて、樹脂板がドリルにひっかかってグルんグルんと回ってました。
そんな状態だから、当然、穴も変形してしまって、やり直し。 幸い、材料へのダメージだけで済んでよかったのですが、もしものことを思えば一大事になっていたかも… な状況でした。
その時、親父から教わったのが、樹脂に穴をあける場合の方法です。
どうすれば、安全に且つ、綺麗に穴あけができるか?
何が悪かったのか? 普通に思えば、よく切れる方がいいんじゃない? って思うよね?
でも、樹脂のような柔らかい素材の場合、鉄などの一般鋼材向けの研ぎ方では切れ味が良すぎてNGなんです。
では、どう対応すればいいのか?
っていうと、ひとつは、樹脂専用のドリルを使うという方法があります。 専用のを買えば、手っ取り早くて確実です。 また、穴あけの頻度が多い場合には、それで対応するのが一番かもしれません。 しかし、直径に応じたドリルを揃えなければならないとか、また、それらを管理するなどという手間やコストの問題もありますよね。 こと、それほど頻度がないという場合には、ちょっともったいない気もします。
そんな時に、とっておきの方法があるんです。
研ぎ方を変える。
実は、刃先の研ぎ方を変えれば、簡単に対応できるんです。
一般鋼材の場合と違って、樹脂に穴をあける場合は、どちらかというと〝切る〟よりも『削る』に近いイメージの刃がいいです。 具体的に言うとドリルの刃を殺す… つまり、切れなくするということです。 こんな感じ(下の画像)。
ちょっと見にくいのだけど、画像の青〇が鉄向けの研ぎ方で、赤〇の矢印の部分が刃の裏の部分を殺して研いだもの。 刃裏を殺すことで、樹脂がドリルにかじりつく(食い込む)ことがなくなり、削っていくような感じで穴をあけることができます。
ちょっとしたことなのだけど、これだけで安全に、綺麗にあけることができます!
動画はこちらから。
柔らかい素材に有効。
ちなみに、この研ぎ方は真鍮のような柔らかい金属に穴をあける場合にも有効です。
真鍮の場合も同じく、鉄用のドリルであけると刃が食い込んでいく現象が起きてしまって危険なんです。 それに、鉄向けのドリルを使うと、場合によっては思ってる以上の径になってしまうことも。
樹脂でも真鍮でも、切れ味鋭くスパッと切ってあけるというより、ちょうど、〝かき氷的な〟イメージで削りながらあけるというのが適しています。 もし、そういう素材に穴をあける機会があれば、一度試してみてください。
そうそう、この研ぎ方で鉄への穴あけはできないので、作業が終わった後は注意してくださいね。
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